静かな物語の良さ/アンダーカレント 豊田徹也
静かな静かな漫画のように思います。主人公は、いきなり夫が失踪してしまった昔ながらの銭湯のオカミさん。と、いってもまだ代を継いだばかりで若い感じ。先代が亡くなったため、主人公の夫はそれまで勤めていた会社を退職し、主人公と銭湯を切り盛りして行こうとしていた矢先の失踪。主人公には理由が見当たらない。そして、銭湯組合から従業員として紹介された謎の男が現れて、主人公は徐々に日常を取り戻していく。ところが、夫の失踪について私立探偵に調査を依頼し、思わぬ嘘が判明していく…。
単行本一冊で完結なのだけれど、一冊を通して割と淡々としたノリで物語が進みます。そして、クライマックスで一気に謎が解決して、少し救いを含んだ終わり方をします。
夫が失踪した「謎」を通して、少しだけ、嘘をつかずに生きることとは?相手の事を「知る」ってどういうことなのか?を振り返ることが出来たように思います。
ちなみに、この本の作者"豊田徹也"氏は、wikiによるとこの作品の連載終了後に「工場で働く」という言葉を残し、新作は発表していないとの事。これもまた、ある意味謎。日本、それともどこか他の国の工場で、今頃はたらいているのかなあ? by 凹
2007.1.12追記;
この漫画を読んでいて思い出したことがあります。それは、私の大好きな漫画、獣木野生著『PALM』の主人公ジェームスが作中で言った言葉。
「1度嘘をついたら、その嘘をかばう為の嘘をまたつかなくてはならない。そうして、嘘が重なっていく。。。そういう人生は耐えられない。」
本当にその通り。
だけど、人生は難しい。
そういう風に生きられれば、本当はいいのかもしれないけれど。
理由も言わず忽然と姿を消した夫、残された銭湯を切り盛りせざろうえなくなった主人公である妻。銭湯を手伝うため組合から派遣された男。引きずる思いと自分自身の納得のため調査を依頼された探偵。それぞれの行動には理由があり、それの全ては自分しか知らない。そして何かを見抜いていた個性的な老人。
水の中にゆっくりと沈んでいくような、流れる時間に身をゆだねるように、この作品の中では淡々と時が流れていく。ジェットコースターのように次々と劇的な展開が訪れることもなく、誰かが雄弁なセリフを叫んでいるようなこともない、猛烈に感動する登場人物もいない。
何度か、跡形も無くいなくなってしまおうと思うことがあった。自分の思っていることや感じていること、消し去れない過去。もはや自分では立て直せない現実。今 そんな自分である理由をわかって欲しいと思いそれを特定の誰かに伝えようと努力したとして、それがすべてが伝わることは一生ない。
たとえ愛する誰かに、とうとうと長い時間心情を告白されたとしても、それが全てではあり得ないし、涙がこぼれるほど思ってあげられたとしても、全てを吐き出してもらうことも叶わなければ、すべて理解してあげることも不可能だ。
でも、お互いに理解し合おうと思い続ければ続けるほど、"より理解しあう"ことは出来る。例え別れてしまっても、また誰かと”より理解し合うこと”を求め恋愛し、特定の誰かとは繰り返し愛を証明し合い確かめ続ける。
主人公と失踪した夫は、愛しあっていなかったというよりも、お互いに理解し合う努力をしていなかったのかも知れない。すべてが明らかになる結末部分よりも、この物語の中で黙々と流れる時間の中にそんなことを感じた。
あのな、これ読んでるとなぜか軽い頭痛がするんや。ほかにもそういう漫画があるんやけど、もしかしてなんかのサインやろか? by 凸